【ご質問】 すごく不思議です。 人間には何故心があるのでしょうか? 心はどこから来たのでしょうか? 何故この心にこの体があるのでしょうか? お釈迦様はどのように答えておられますか? 【お答えになるかどうか】 何と難しいというか、大上段からの直球の質問ですね。寺もっちゃん。 「あらゆるもののなかで、先立つものは心である。 あらゆるものは、こころを主とし、心によってつくりだされる。 もしも汚れた心で話したり行ったりするならば、苦しみはその人につきまとう。 荷車を引く牛に車輪がついていくように。」 (『法句経(ダンマパダ)』第1偈 A・スマナサーラ訳より) 仏教は、欧米では19~20世紀初めにかけて西欧列強によるアジアの植民地化が進展し交流が盛んになることで伝えられ、宗教としてではなく「心の科学」として捉えられていました。キリスト教神学と比べて、その先進性と精密さを持った体系的学問として、しかもイエス様より500年も前の、ギリシャの哲学者たちや中国の孔子などとほぼ同時代に生きた“ゴータマ・ブッダ”お釈迦様の存在が驚きの目で迎えられました。考古学・歴史学者、文献史学者、文化人類学者は当然として、ニーチェのような哲学者やユングのような心理学者、シュタイナーのような教育学者・神智学者も強い影響を受けたようです。勿論、キリスト教から見れば彼らは異端扱いでしたが。現代では中共のチベット侵攻により亡命したダライ・ラマなどによるチベット密教や禅宗をはじめとした我が国仏教の布教が欧米でインテリ層に受け入れられ、スピリチュアルやニューエイジといった新しい精神・信仰のカタチにもまた仏教の強い影響が認められます。80年代まで生きた精神分析のラカンが、「禅マスター」と呼ばれていたそうです。 横道にそれましたね。それではご質問へのお答えと行きましょう。 人間には何故心があるのか? → 心があるから人間なのです。 何故この心にこの体があるのか? → この体があるから、この心が生まれたのです。 これは、十二縁起(=無明→行→識→名識→六処→触→受→愛→取→有→生→老死)で明らかです。赤ちゃんが生まれて成長し、やがて老いて死ぬまでの、人間の一生を考えれば分かりやすいと思います。まず体が生まれ、いろいろな刺激を受けながら心が育てられ、残念ながら煩悩が生じ、苦も現れていくのです。十二縁起は長くなるので、そのうち機会があればご説明します。 では、心はどこから来たのでしょうか? 人間は、多くの生物の中で唯一、その心の働きによって、過去・現在・未来の三世という時間軸を認識できるものです。過去をふり返って思い出に浸り、未来のあることを信じて生きることができます。他の動物にも記憶はありますが、彼らの意識の中には今しかありません。人もほんとうは他の動物と同じなのですが、意識を心に進化させて、自他を区別する自我をつくり、時間軸を意識しながら、文化文明を発達させることができました。が、同時に苦悩と共に生きることにもなったのです。これも十二縁起ですね。 では、心とは何でしょうか? 仏教では「心は、“心”と“意”と“識”という三つの働きからできている」と考えます。「心」は主体、自己自身、「我思う、故に我在り」の「我」ですね。「意」は考えること、「我思う」働きです。「識」は判別・分別すること、「故に我在り」と決める働き。前述のラカンは「我、思わぬ故に我あり」と言ったそうですが、思わぬだけで同じことです。 さらには、心を八識=顕在心(眼識+耳識+鼻識+舌識+身識+意識)+潜在心(末那識+阿羅耶識)に分けて考えていきます。顕在心は感覚器官から得られるものと、そこから生まれる意識です。潜在心、心理学でいう潜在意識の末那識は「無意識の自己愛の領域」で、煩悩である自我意識(我痴、我見、我慢、我愛)が隠されており、阿羅耶識は「根源的な心の作用」で、末那識から刺激を受けながら、生きているという意識を一瞬一瞬つなぐ意識ということで、人間の考え方や行動を生み出す基本です。ここに仏性があり、悟り(覚り)を得ると、智慧(=般若=仏の悟った境地)が現れます。このように煩悩を捨て去り、心を静かに治めて阿羅耶識を目覚めさせ、善に保つのが本来の仏教の目標です。 もっとも「無自性」~心という実体はなく「空」だというのが、仏教の究極の段階の教えです。この辺は般若心経の現代語訳でも読んでください。 「心はとらえ難く、軽々とざわつき、欲するままにおもむく。 その心は制御(コントロール)したほうがよい。 よく制御した心は、安らぎをもたらす。」 (『法句経(ダンマパダ)』第35偈 A・スマナサーラ訳より) 合掌 観学院称徳
by kangakuin
| 2005-09-16 16:44
| よくある質問お答え
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